- 2012
03
26 米P&Gの危機管理体制
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3月初旬にニューヨークで開催されたイベント"Reputation Preservation and Crisis Communication Summit"に出席して得られたものを断続的にアウトプットしたいと思います。
創業175年、売上げ830億ドル。小売りメーカーとしては世界最大級のP&G。世界中の消費者が何らかの形でP&Gの製品と関わるのは一日で44億回にも上るそうだ。想起される回数が多いということは、様々な危機が起こる可能性も高くなる。そんな巨大企業は、一体どのような態勢で危機管理をしているのか。コーポレイトコミュニケーションの責任者Paul Fox氏が語ってくれた。
P&Gの危機管理のレイヤーは大きく分けて二段階ある。まずは、リスクを正しく理解し優先順位をつけること。問題になりそうなもの全てに全力で関わっていては効率が悪い。
1.予想されること他社の事例から:他の企業などの例で自分たちの会社にも同様のことが起こりえるかどうか。緩和の可能性:何が問題となるのか。その問題を軽減できる可能性はどのくらいあるか。2.インパクト会計、世評、規定、事業への弊害、想定される期間。企業やブランドのリスクの対象は決して一様ではない。それぞれへのリスクを数値化して総合的に判断する。まずこれらの要素を冷静に分析することで、会社がどれだけのリスクに直面しているのかを把握する。そのチェック表が下の画像だ。状況を五段階に分けて、危険度が高い順に赤、黄、緑と三色に色分けする。よりリスクの高い問題から優先して対応できる。問題が起きると人間どうしても感情的になりやすい。この世の全てが自分の敵とも思えてしまう。シンプルなマトリックスだが、数値化することで多様なリスクへの判断を見誤らないようにしたい。
次の段階は、問題に対する具体的な対応と態勢だ。ここでも重要なことは二点。1.意思決定の権限の明確化2.素早く適切に対応することこの二点を円滑に実行するためにP&Gが採用しているのが「PACEモデル」と呼ばれる危機管理態勢だ。ちなみに、PACEモデルのことを知っていたのは60人ほどの参加者の中で一人だけだったので、このブログを読んでいる方の中に、もしすでにご存知の人がいたらやるね!P Process Owner問題を統括して把握する人。対応するための方法を決定して、今実行すべきことを考える人。A Approver最終判断をする人。複数人ではなく、一人が請け負う。C Contributor周りでサポートする人。問題に対応するための情報などをApproverに渡すのが仕事。E Executor実務を実行する人。素早い対応のために、意思決定するApproverが少人数であることは予想できるが、少人数どころか、たった一人が意思決定をして行く。どこに舵を切るのか。帆を張るのか畳むのか。まさに船長だ。日本企業にとって最も真似の難しい役どころではないかと感じた。この態勢を築きつつ、同時に前述のような分析ツールを使用する。ここではシナリオツールと、エスカレーションツールを使用する。シナリオツールは問題を4段階に分けて分析する。最悪の状態、つまり最終四段階でどのようなことがおこるのかを予想する。やはり色分けで危機の段階を分かりやすくしておく。ApproverやContributorの意見を参考にしながらProcess Ownerが作成する。エスカレーションツールは各ステークホルダー、それぞれに対してこの四段階それぞれで、いつどういうアクションを取るべきかを想定するツールだ。P&Gの場合は消費者や、メディア、退職者、購買アナリストなど20のステークホルダーを設定している。今日の思考このセッションは約9分。今思い出すととんでもない情報密度のセッションだった。はあ、疲れた。危機の段階を色分けして共有するというのはアメリカでは一般的だ。「大変だ、大変だ」と騒ぐのではなくどのくらい大変で、いつ誰が、誰に何をどうするのかを冷静に分析するには合理的だ。アメリカといえども常に合理的だったわけではなく、めんどくさい炎上とか企業の存在を揺るがすほどの経験をしてきた上に築いたシステムだ。175年の企業史から学べることはまだまだありそうだ。実際のセッションでは、このエントリの中では紹介できなかったツールの実例が惜しげなく公開された。老舗企業のその姿勢に素直に関心したものだ。情報や経験の共有。難しいよねえ
- Hitoshi Eiga栄花 均
ソーシャルメディア・ストラテジスト、なんて名乗ったりしているが海外単身赴任生活の孤独を埋めてくれたFacebookへの思い入れがひと際強い。
ソーシャルメディアを考えるのは人生を考えること。人生を考えるのは、自分の周りの人を考えること。その人たちと何をするのかが人生。海外の最新情報や、事例の紹介、費用対効果、マーケティング情報は他に任せる。ソーシャルメディアを思考するブログ。それがこのブログです。
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